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東京高等裁判所 昭和58年(ラ)227号 決定

抗告人 第一開発株式会社

相手方 株式会社小西経営事務所

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

二  そこで、以下その当否について判断する。

抗告理由第一点について

抗告人は、本件電話加入権売却命令が債務者を審尋することなく発せられたのは民事執行法一六一条二項に違反する旨主張する。なるほど同法一六七条一項によれば、電話加入権に対する強制執行は、債権執行の例によることとされているので、電話加入権の換価方法として同法一六一条一項により執行裁判所がその売却命令を発する場合には、あらかじめ債務者を審尋しなければならないとする同条二項の準用があるかのごとくである。しかし、同条は、差し押さえられた債権が条件付である等の事由によりその取立てが困難である場合に、債権の通常の換価方法である取立命令又は転付命令以外の特別の換価方法を定めた規定であつて、右の換価方法が命ぜられる場合には、債務者に不測の損害を生ずるおそれがあるので、同条二項は、債務者保護の観点から特に債務者を審尋しなければならない旨規定したものにほかならない。しかるに、電話加入権のように、そもそも取立命令又は転付命令のごとき換価方法の考えられない財産権にあつては、売却命令又は譲渡命令が通常の換価方法であるから、執行裁判所があらかじめ債務者を審尋することなく、そのいずれかの命令を発したからといつて、特に債務者に不利益を与えるものではない。けだし、債務者として当然予期した換価命令が発せられたにすぎないからである。それ故、電話加入権の売却命令又は譲渡命令については、債務者を審尋するのは無意味であるから、同条二項の規定は、準用がないと解するのが相当である。

(なお、旧法下では、審尋不要であることが規定の上からほとんど疑いがなく、実務もこれに従つていたが、民事執行法が特にこの点を改めたものとは解しえない。民事訴訟法旧六二五条、六一三条、旧電話加入権強制執行規則参照)。

そうだとすれば、原審が抗告人を審尋することなく、本件電話加入権の売却命令を発したのは正当であつて、抗告理由第一点は、理由がない。

抗告理由第二点について

抗告人は、本件売却命令の基礎となつた執行証書の作成後に抗告人と相手方との間で和解が成立し、これに基づき一〇〇〇万円を相手方に弁済したから、執行債権は、全部消滅した旨主張するところ、執行抗告の理由となりうるのは、執行裁判所がみずから調査し、遵守すべき事項についての違法であつて、債務名義に記載された執行債権の存否のごとき執行により実現されるべき実体権の不存在ないし消滅は、請求異議の訴えにより主張すべきことは当然であり、執行抗告の理由となるものではない。したがつて、抗告理由第二点も、理由がない。

三  よつて、本件抗告は、いずれも理由がないので、主文のとおり決定する。

(裁判官 小堀勇 吉野衛 山崎健二)

別紙

執行抗告状

東京都中野区東中野一丁目五五番四号

大島ビル第二別館五〇二号

抗告人 第一開発株式会社

代表者代表取締役 大倉清司

東京地方裁判所昭和五八年(ヲ)第三七二五号電話加入権売却命令について、つぎのとおり執行抗告をする。

昭和五八年四月一一日

抗告人代理人

弁護士 村山廣二

東京高等裁判所 御中

抗告の趣旨

東京地方裁判所民事第二一部が昭和五八年三月三一日にした電話加入権売却命令(昭和五八年(ヲ)第三七二五号)を取消す。との裁判を求める。

抗告の理由

一 抗告人は、昭和五八年四月四日前記売却命令の送達を受けた。

二 しかし、前記命令を発するには債務者の審尋を要するところ(民事執行法第一六一条二項)、前記命令に際し、債務者の審尋を欠いている。

三 また、前記命令は、被抗告人から抗告人に対する東京法務局所属公証人橋詰利男作成昭和五七年第八四五号金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正本にもとづいている。 四 しかし、この公正証書記載の債務については昭和五七年七月三〇日、抗告人と被抗告人間において金一〇〇〇万円を一括支払うことで和解が成立し、同日、抗告人は被抗告人に金一〇〇〇万円支払い、債務は全部消滅したものである。

なお、抗告人は被抗告人を相手として御庁に昭和五八年(ワ)第三五二一号をもつて請求異議の訴を提起した。

五 よつて、抗告の趣旨記載の裁判ありたく、執行抗告をする。

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